起業家の友人から突然の連絡、資金が尽きるまで2週間。

香港では旧正月が始まるった。街では中国っぽい音楽が流れていたり、レッドポケット(お年玉のようなもの)が売られていたり、旧正月っぽい雰囲気が漂っている。

しかし、そんな雰囲気も武漢発症の肺炎でぶち壊しになるかもしれない。この数日で、死者と感染者の報道数が日に日に増えている。

17年前のちょうど今頃猛威を振るったSARSを記憶している香港の人たちは、どこに行くにもマスクを着用し、外出もなるべく控えるだろう。既に街中をいく人々の半数以上はマスクを着用済だ。

1月はカレンダーベースの正月と旧正月に挟まれるため、皆何かのほほんとしていて、ビジネスの話も進みにくいものだ。

そんな中、旧正月前のある日の夜遅くに突然、起業家の友人からこんなメッセージがWhatsappに入った。

「今5分話せるかな?緊急事態が起きたので、知恵を借りたいんだけど。」(筆者日本語訳)

彼はインドから香港に渡り、金融機関やスタートアップで働き、2年前に香港でスタートアップを立ち上げた友人だ。

会っていて気持ちが良いやつで、毎月会ってキャッチアップしている仲。まだ20代で将来が楽しみな人物だ。

彼の会社は、シードラウンドをわずか1週間で調達し終えたものの、現在取り組んでいるシリーズAはなかなか話が進まず、悪戦苦闘しているのを聞いていた。

前回会った時の話だと、ようやく投資家が見つかったので、今がちょうどクロージングのタイミングのはずだが。。。 

僕は資金調達できっと何か不測の事態が起きたのだと思い、急いで彼に電話をした。

すると、何か声の調子がいつもとは違う彼が、話し始めた。聞いてみると、

「今回リードを取る話で進んでいた既存投資家が、サイニングの24時間前にやっぱり投資できないと伝えてきた。新規投資家は既存投資家が投資するのが条件だから、投資してくれない可能性が高い。。。ランウェイは残り2週間。どうしよう。」

こんな内容だった。

※ランウェイとは資金が尽きるまでの推定期間。

当初口約束していた投資家がいきなり手を引くというのは、時々聞く話ではあるが、サイニングの24時間前とはあまりにもひどい。まるで式場で永遠の愛を誓い合うその直前に「やっぱり貴方とは結婚できないわ、ごめんなさい。」といって式場を駆け足で出ていく花嫁。そんな映画のワンシーンのような話だw

この投資家は小さなVCなのだが、きっといずれ消えていくだろう。どの業界でもレピュテーションは大事だが、スタートアップ投資においてレピュテーションは命だからだ。

友人の声は上ずっていて動揺しているのが分かった。僕は、頭をフル回転させて次の一手や考えるべきことを彼と議論した後に、いくつかサポートの言葉を送らせてもらった。

旧正月中に改めてお茶する予定なので、うまくいくと良いのだが。

スタートアップの資金調達環境は確実に悪くなっている。これまでバリュエーションが高くなり過ぎていて、これまでが良過ぎたとも言える。

WeWorkはあくまで氷山の一角なのだが、派手にやらかしてメディアの餌食になったこともあり、資金調達環境悪化の象徴的なイベントとなってしまった。

以前書いたように、これから倒産してしまうスタートアップ、救済的に二束三文で買収されるスタートアップや、新規にファンドレイズが出来ずに静かに死んでいくファンドが増えていくだろう。まだ表に出てきているのはほんの始まりである。

決して良いニュースではなかった一方、相談をもらった時に僕は嬉しさも感じていた。何故なら、起業家が大ピンチの時に、自分を頼って相談してくれたからだ。

既存投資家とコンフリクトがあったせいもあると思うが、それでも普段できる限り相談に乗るように努め、多少は有益なサポートが出来ていたから、少しは信頼してくれたのだと思う。

旧正月色に染まる香港にて、友人のスタートアップが上手くこの難局を乗り切ることを祈りつつ、これまで自分が積み重ねてきたことが良い方向に向かっている手応えを感じられた夜であった。

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