貨物輸送業に切り込む 世界で最もセクシーでないユニコーン Flexportのビジネスモデル

今回は、貨物輸送の分野で急成長中しているFlexportを紹介しよう。海運貨物と言うと地味で規制が厳格なイメージがあるが、その中で大手の一角に入り込む勢いのスタートアップがFlexportだ。

Flexportとは

Flexportは2013年に設立され、現在米サンフランシスコに本社を置く。600名超の従業員が、世界9ヶ所のオフィスで働いているようだ。9ヶ所とは、米のサンフランシスコ・LA・シカゴ・アトランタ・ニューヨークに加えて、アムステルダム、ハンブルグ(ドイツ)、そして香港と深センだ。

ちなみに、創業者CEOのRyan Petersenは、コロンビアMBAの先輩にあたる。

事業領域は、以下の5つだ。ビジネスモデルについては、後ほど見て行こう。

  • 海運
  • 空運
  • 陸運(トラック)
  • 貨物保険
  • 関税

「なるほどな」と思ったFlexportのビジネスモデル

Flexportで「なるほどな」と思ったことの一つに、そのビジネスモデルがある。2つの両輪が回ることで機能しているのだ。

車輪の一つは、顧客が使える貨物輸送のポータルサイトの提供だ。貨物の現在地情報から貨物業者の見積もり比較、船荷証券や送り状の管理まで、一括で管理できる。このポータルサイトの提供を、基本的に無料で行っている。

何故無料で提供が可能かと言うと、その秘密はもう一つの車輪、自社の貨物輸送サービスにある。Flexportは、ポータルを無料で提供する代わりに、顧客の貨物輸送に関するあらゆるデータを取得する。そのデータを分析することで、リアルタイムで最も安く且つ効率的に貨物輸送できるルートや業者を選ぶことができ、それを元に有料で輸送サービスを提供しているのだ。

つまり、顧客に無料で提供するポータルサイトを通じて膨大なデータを取得し、それを生かして自社の輸送サービスを有料で提供しているのだ。おそらく、ポータルサイトを無料で利用する顧客の多くは、有料の輸送サービスもセットで利用しているのだろう。

ちなみに、一部の大型顧客には、輸送するボリュームが自社だけで巨大なため、輸送業者と直接取引した方が安い会社がある。こうした大型顧客には、ポータルサイトを有料で提供し始めている。

今後の事業展開

そんなFlexportは、今後いかなる展開を考えているのだろうか。

ビジネスの垂直展開

先ずは、ビジネスの垂直展開だ。

調達した巨額の資金を使い、空輸に関して自社便をチャーターしたり、更には自社の巨大な倉庫をLAや香港で開設している。より効率的に貨物輸送が可能になるからだ。

実際の倉庫等、大きな固定資産を持つことは、通常のテック・スタートアップと異にする点だろう。

輸送量が更に増えていけば、自社航空機を保有すること等も十分考えられる。

貿易におけるつなぎ融資

Flexportは、貿易に関するつなぎ融資事業に参入することも表明している。製品を製造・販売してから資金回収までは相応の時間がかかるため、国際貿易の80-90%はつなぎ融資を利用するらしい。

「上手いな」と思ったのは、アメリカにおいて総資産ベース第三位のWells Fargoを投資家に迎え入れ、彼らをパートナーとして貿易融資を行うことだ。

Flexportは顧客のソーシングや、その信用を測るデータを保有・分析し、融資のお金自体はWells Fargoから出され、利子をシェアするのだろう。非常に良い組み手だと思う。

キーとなる営業指標

1年ほど前のデータではあるが、幾つかデータが公開されているので、見てみよう。

キーとなる営業指標
海上輸送コンテーナー数/月:7,000
コンテーナー当たり輸送料金:$2,000
コンテーナー当たりのFlexportの取り分:15%
海上輸送の売上高/月:$2.1M(2億4千万円)

コンテーナー当たりの輸送料金が2,000米ドルと思ったより高くない一方、Flexportの取り分は15%も有る。年換算すると、海上輸送だけで30億円弱の売上だ。これに加えて、空路、陸路、貨物保険、関税に係るサービスの売上高が乗ってくる。

この時点で1年前と比較すると、4倍弱のペースで売上が伸びているようだ。もしこの成長が現在も続いているか更に増しているとすると、かなりの売上規模になる。

資金調達と株主

 Flexportはこれまで$304M(400億円弱)を調達している。主な株主は以下の通りだ。

  • Founders Fund
  • Y Combinator
  • First Round Capital
  • DST Global
  • Wells Fargo
  • SF Express

Founders Fundは、PaypalマフィアのボスであるPieter ThielのVCファンド。Y Combinatorは世界一のアクセレレーターで、Flexportもその卒業生だ。First RoundはUberの初期投資家としても知られているトップVC。DSTは香港拠点のロシア系ファンドで、FacebookやAlibaba等への投資が有名だ。最近はファンドサイズが大きくなったこともあり、シリーズB以降で大きなお金を張っている印象がある。SF Expressは中国第2位の運送会社で、僕の投資先も深く関わっている。

まとめ

今回は、貨物輸送という地味な業界をテクノロジーを用いて刷新しているFlexportについて綴ってきたが、いかがだっただろうか。

  • 世界で最もセクシーでないユニコーンと言われるFlexportは、貨物輸送の管理ポータルを無料で提供
  • 一方、ポータルの運用で取得したデータを分析し、最適化した自社貨物輸送サービスを有料で提供
  • 自社航空便のチャーターや自社倉庫の所有等、ビジネスの垂直展開を推進
  • Wells Fargoという巨大銀行を投資家兼パートナーとして迎え、巨大な市場である貿易融資業に参入
単にソフトウェアの提供に留まらない骨太なスタートアップであり、今後も引き続き要チェックしていきたいと思う。

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