香港のスタートアップ マクロ環境 中国・東南アジア展開のゲートウェイ

先週、東南アジアのスタートアップへの投資環境について、3回に分けて投稿した。今回は、その流れを汲んで、香港のスタートアップ環境についてまとめてみようと思う。

香港のマクロデータ

スタートアップ環境について書く前に、先ずは香港のマクロデータを見ていこう。

香港のマクロデータ

人口:739万人(2017)
GDP:341千億米ドル(2017)
一人当たりGDP:48千米ドル(2018)
面積:1,104平方キロメートル
富裕層の人口:25万人超(保有資産33億円以上)

出所:IMF等

香港は中国深センの南にある都市で、面積は東京23区の2倍弱程度ある(東京は619平方キロメートル)。しかし、この面積の10%超に人口が集中しているため、人口密度が異常に高い街だ。

一人当たりGDPは世界で18位。ちなみに日本は40千米ドルで26位と香港より低く、アジアの他国だとシンガポールが61千米ドルで9位だ。個人的に驚いたのは、マカオが82千米ドルの4位であること。中国からのロンダリングされたお金がなだれ込んでいるのだろう笑 

香港についてまとめると、人口は少ないものの、一人当たりGDPが高く、保有資産が33億円以上の富裕層が25万人超と、世界的に見てもお金が集まっている街と言えるだろう。

香港スタートアップの数

続いて、香港のスタートアップに関するマクロデータを見ていこう。

香港のスタートアップ数
2014:998
2015:1,558
2016:2,500

出所:WHub

 先ずは香港のスタートアップ数を見ていこう。WHubが公開しているデータによると、香港には2016年時点で約2,500のスタートアップが存在している。uzabaseが運営している日本最大級のスタートアップ・データベースであるentrepediaは、1万社以上をカバーしているので、日本の方が圧倒的に数は多いと推測できる。ちなみに、シンガポールは現在、約3,000のスタートアップが存在しているようだ。(出所:TechSG)

僕が業界の友人と話していても、香港よりはシンガポールの方がスタートアップ・シーンは盛り上がっていて、それと一致する。大きな違いは、政府のサポートとそこを拠点としているVCの数だろう。何れもシンガポールの方が厚い。

香港については、政府が力を入れ始めていて、様々なカンファレンスを開いたり、Cyberportという香港島の西端にて政府主導の共有スペースを、審査を通過したスタートアップに2年間無償で開放している。僕の投資先も来月から入居する予定だ。日本関連でいくと、少し前に、みずほがCyberport等と協業する発表があった

香港スタートアップの分野

次に、どんな分野のスタートアップが香港には多いのだろうか。

分野でみると、E-commerceが最も多く、ソフトウェア・広告・ハードウェア・フィンテック等が続いている。自分達が見ている分野であることもあるが、フィンテックのスタートアップは相応に数がある印象だ。背景には、香港が世界屈指の金融センターであり、大手金融機関が拠点を持っていて、地理的にそれらの大手機関と連携がしやすいこと等が挙げられる。

ちなみに、香港では金融業界のみ大幅に給与が高いため、優秀な新卒はこぞって大手投資銀行に入社している印象がある。スタートアップの創業者でも、元金融バックグラウンドが多い。これは、何もM&Aや資金調達、トレーディング等のフロントデスクに限らず、トレーディングシステムを作るエンジニアも同じだ。

香港のスタートアップ各社に共通する悩みは、エンジニアの確保で(世界中どこでも同じかもしれない)、優秀なエンジニアは基本的に大手金融機関で働いている。スタートアップのエンジニアについては、需要が供給を圧倒的に上回っているので、オフショアでエンジニアチームを持っているスタートアップが多いことは、ここで述べておこう。

香港スタートアップ創業者の出身地

香港のスタートアップをみる上で、スタートアップ創業者の出身地を理解することは大切だと思う。

香港スタートアップ創業者の出身地
香港:62%
香港以外(中国本土を含む):38%

香港はスタートアップ創業者の約4割が外国人である。アメリカ・イギリス・中国本土・フランス等の出身者が多い。コミュニティで人に会っていても、香港に長く住んでいる欧米人は多いし、香港人であっても欧米で教育を受けている人がかなり多い印象だ。

ちなみに、上の円グラフを見ると、日本が2.2%とあるが、僕が知る限り、香港のスタートアップ界隈に出入りしている日本人はいない。(香港と日本のハーフの起業家は知っている。)

個人的にはフランス人が多いのは面白いと思った。香港は阿片戦争以降約150年間、イギリスの監督下にあったので、イギリス人が多いのは理解できる。アメリカ人はどこに行っても一定程度いる笑。フランス人については、自国が旧態依然の法律や規則、やや保守的な文化もあり、能力のある若者が成長しているマーケットに勝負しに行っていると聞いたことがある。今後、フランス人の友人に確認してみたい。

香港におけるファンディング・ギャップ

最後に、香港におけるファンディング・ギャップについて触れておこう。

前々回の投稿で、東南アジアではシリーズB-Dにおけるギャップがあると述べたが、香港ではシードからシリーズAにギャップがあるようだ。

WHubが公開している上記のデータを見ると、シードと比較してシリーズA投資を受けているスタートアップの割合が、ニューヨークやシンガポール等と比較して極端に低い。

僕の感覚・理解では、香港にはここを拠点とするVCが少なく、政府主導のアクセレレータ等でシード投資を受けたスタートアップが、VC等から投資を受けられないケースが多くある。これは、そもそもそのスタートアップの質が低いことが理由の場合もある。質が高いスタートアップの場合、例えば中国やシンガポールを拠点とするVCにアクセスし、資金調達をするケースは多い。

更に後のステージになると、香港の経済界を席巻するファミリー・オフィスが投資に参加することも多い。

まとめ

今回は香港のスタートアップについて、マクロ的な視点から見てきたが、いかがだっただろうか。今回の内容を以下にまとめてみた。

  • 2,500超のスタートアップが存在
  • 約4割が外国人創業者で、日本人はほぼ無し
  • シリーズAでの資金提供が不足

香港は、中国に入るエントリーポイントとして最適な場所であることに加えて、東南アジア等に拡大していくための最初の場所としても面白いと思っている。一方で、香港において、日本のスタートアップやVCの存在感は全くない。自分が活躍することによってプレゼンスを高めると共に、日本のスタートアップやVCが徐々に香港にも目を向けると良いのではと思っている。

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