B2Bの出張手続きを変革する、 ユニコーン入りしたスタートアップのTripActionsとは

昨年11月に、とあるスタートアップがユニコーンの仲間入りを果たした。それが、米TripActionsだ。僕はトラベル領域の投資も見ているが、その中で個人的に注目している分野の一つが、TripActionsが扱っている出張アレンジの領域だ。

TripActionsとは

TripActionsは、2015年に設立されたスタートアップで、法人顧客に対して(B2B)、出張アレンジを簡潔に・低コストで実現できるサービス・仕組みを提供している。

具体的には、出張に際する以下4つの機能を提供している。

出張の予約

個人向けである、じゃらんや楽天トラベル、Expedia等の出張版のプラットフォーム(飛行機・ホテル・車・電車の予約)を提供している。個人向けプラットフォームとの違いは、それより最大40%程度安いことだ。

TripActionsはExpediaやPricelineといった大手旅行プラットフォームと提携していて、彼らが抱える売れ残り(在庫)を自社プラットフォームで売っている。ExpediaやPricelineからすれば、売れ残るより割り引いて売る方が当然良いので、割り引いてでもTripActionsで売れれば有難い。プラットフォームとTripActionsがお互いWin-Winなのだ。

トラッキング

顧客、正確に言うと、TripActionsの法人顧客それぞれの従業員が出張中、例えば飛行機の渡航状況等をトラックして、何か変更や問題があれば携帯で連絡をしてくれる。とても助かるサービスだ。

レポート

例えば法人顧客の管理職に向けて、元の予算と比較してどれだけ節約ができたか、どの従業員がどれだけ節約したか等の分析レポートが自動で送られる。

費用申請

最後に、従業員も経理担当も面倒な出張の費用申請・処理を、会計ソフトウェアとAPIを通して繋ぐことで、スムーズに行ってくれる。

僕は大企業で出張費用を申請したことも、小さな会社で申請された(と言うよりレシートを収集したw)費用を地道に会計処理していたことも両方あるが、何れも面倒且つストレスだったので、これも有難い機能だと推測する。

サービスのポイント

モバイル・フォーカス

C向けサービスだと全く目新しくないが、それがB2Bの主張アレンジのサービスだとデスクトップや電話をメインに行われていたのだろう。

明確なインセンティブ設計

このサービスの肝の一つとして、TripActions、顧客の法人、法人の顧客がそれぞれwin-win-winになるインセンティブ設計が挙げられる。

TripActionsは従業員が節約した出張費用の一定割合を、インセンティブとしてアマゾンのギフト券や個人の旅行時に還元する仕組みを提供しているのだ。

この分かりやすいインセンティブ設計もあり、顧客である法人は、TripActionsのサービス利用前と比較して何と3割弱程度の出張経費削減を実現しているようだ。法人にとっては費用削減になる一方、従業員の満足度も高まる仕組みなのだ。

パーソナライズ

機械学習を用いて、大量なホテルやフライトのデータを分析し、従業員の好みや社内のポジション、利用しているロイヤリティプログラム等を元にして、パーソナライズや最適なマッチングを行っている。

膨大な情報量を処理するのに優れたテクノロジーが必要な一方、パーソナライズが上手くいっているおかげで、従業員は平均6分程度で予約が完了するらしい。自分が旅行ポータルであれでもないこれでもないと時間をかけて予約しているのを考えると、かなり短い!

24時間体制のカスタマー・サポート

例えば、飛行機が遅延した場合は、即座に別の便を予約してくれる。AIを活用することに加えて、世界中の提携エージェントがサポートしてくれるようだ。

ビジネスモデル:固定フィーではなく取引ベース

競合は月額固定でフィーをチャージしているようだが、TripActionsは従業員が予約を行った取引の分量に応じて課金している。取引分量に応じてフィーをチャージすることで、その一部を従業員に還元するインセンティブ設計が可能になっていると言える。

顧客:巨大スタートアップ・テクノロジー企業がずらり

顧客例を見てみると、巨大なテクノロジー企業が多い。日本でもユーザーが多いDropbox、最近IPO申請をしたライドシェアのLyft、Dropboxの競合であるbox、株式やETFの売買が手数料ゼロで行えるユニコーン企業のrobinhood等々。

一方、レストラン・チェーンのcane’sや冷凍ケーキ販売の大手であるSaraLee等、テクノロジー企業以外も顧客を獲得していることが分かる。

競合:老舗の既存プレーヤーに加えて、スタートアップがひしめく市場

アメリカン・エキスプレス・グローバルカールソン・ワゴンリー・トラベルといった既存プレーヤーに加えて、BessemerやGV(GoogleのVC)が投資するRockettrip、Accelが投資するlola.com、上の図には含まれていないがDCMやNEAが投資するTravelBank等、競合が犇めいている。

この図にもあるTravelPerkはスペイン、baokuは中国のスタートアップで、他にも各地域で似た事業を手掛けるスタートアップが出てきている。

今後の展開

海外展開

TripActionsは既にイギリスとオーストラリアにオフィスを構え、オランダのアムステルダムにR&D拠点を設けている。(ちなみに、政府補助が付くオーストラリアや優秀なエンジニアが多いロシアやインド、ベトナム、イスラエル等にR&D拠点を置くのはよく見るが、アムステルダムに置く企業は初めて知った。)アメリカのスタートアップによく見るが、イギリスやオーストラリア・ニュージーランド等、英語圏の国から攻めていくのだろう。

新たなサービス展開

TripActions Luxeという、ロイヤリティの高い従業員向けのVIPプログラムや、TripActions’ in-house Meetings & Eventsというグループ旅行のソリューション、更にTripActions’ Guest Invite Portalという顧客企業の人事向けのポータル提供を始めるようだ。

何れも既存事業に加えたアップセルが期待できるし、顧客企業のロイヤリティが高まるサービスだろう。

株主:a16zが加わり、Ben Horowitzが取締役に

今回シリーズCで$154M(≒170億円)を調達したことで、既存株主のZeev VenturesやLightspeedに加えて、シリコンバレーで最も優れたVCの一つであるAndreessen Horowitzがこのラウンドをリードしたことが大きい。

更に、業界のスーパースターと言えるBen Horowitzが取締役に加わることも見逃せない。ただでさえ多忙の彼が時間と労力を割いて取締役になるのは、それほどTripActionsの今後の成長見込みが高いと見ている裏返しと言える。

売上ベースでは、2017年度の売上が前年比700%と爆速成長しているようなので、同社がマーケットリーダーになれると踏んだのだろう。

まとめ

今回は、法人向けに出張予約に係る包括的なサービスを提供するTripActionsを見てきたが、いかがだっただろうか。

  1. TripActionsは、出張に係る予約・トラッキング・レポート・費用申請に渡るサービスを、法人顧客及びその従業員向けに提供する新ユニコーン企業
  2. サービスの肝は、自らの出張を手配した従業員が、節約した分の分け前を受け取れるインセンティブ設計で、法人自体とその従業員が共にwin-win
  3. Expedia等の旅行予約プラットフォームと提携し、その在庫を最大40%割引で販売。これも、安く提供できるTripActionsと在庫を掃けるプラットフォーマーが共にwin-win
  4. $154Mを調達したシリーズCは、a16zがリードし、現役だがもはやレジェンドと言えるBen Horowitzが取締役に就任
この分野は東南アジアでも注目しているので、引き続きTripActionsの動きをチェックしていきたいと思う。

1 COMMENT

Yuuko

ブログ拝見させていただきました。私自身が元々東京の銀行からスタートし、今ではスタートアップで働いています。香港で就業したく、最近香港の銀行にご縁がありましたが、こちらのブログを見ているとベンチャーも面白そうだなと思ってしまいます。
また、金融から起業へのキャリアチェンジが気になります。

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